⌚ 2023/10/27 (Fri) 🔄 2024/3/20 (Wed)
農業DXとは?解決すべき現状の課題や取り組み事例について解説
国の食を担う重要な産業である農業は、従事者の高齢化、異常気象リスクの増加など非常に厳しい状況におかれています。農業DXはこれらの問題解決に向けた取り組みとして、農林水産省が推進しています。今回は、農業DXの基本的な考え方、DX推進によって実現できることやその成功事例について解説します。
- 農業従事者や農業に興味のある方
- 農業DXにおける活用例を知りたい方
- 農業DXに対する施策を知りたい方
1.農業におけるDXとは
農業におけるDXとは、個別の農業生産だけでなく、流通や販売、マーケティング、CO2排出対策などのすべてのプロセスをデジタル技術の活用によって変革する取り組みです。農林水産省は農業DXの目的を次のように説明してます。
"農業者の高齢化や労働力不足が進む中、デジタル技術を活用して効率の高い営農を実行しつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物・食品を提供していく農業(FaaS:Farming as a Service)への変革の実現"
FaaSとは、消費者ニーズに的確に対応した価値を創造・提供する農業のことです。その実現には、ロボット、AI、IoTなどの最新のデジタル技術を積極的に活用しデータ駆動型の農業経営を行う必要があります。
しかし、農業でのデータ活用は進んでいないのが現状です。農林水産省の調査によると、農業経営体(農作物の生産又は委託を受けて作業を行い、生産面積が一定規模を超える事業体)のうち、データ活用を行っていない割合は全体の76.7%にものぼります。
2.農業が直面する課題
農業には現在さまざまな課題が存在しています。これらの課題をDXで解決できると期待されています。
- 労働力の不足
農業就業者の減少や高齢化により人手不足は深刻です。農林水産省の「農業労働力に関する統計」によると、農業従事者の平均年齢は2019年の66.8歳でしたが、2022年には68.4歳となり、高齢化が進んでいることがわかります。
農業ではいまだに人手に頼るきつい作業が多く、人手不足で生産維持が難しくなる地域もあります。また、経験や勘に頼る作業が多く、新規就農者の定着や知識習得を難しくさせてます。
労働力不足は、耕作放棄地の増加にもつながります。雑草や害虫が発生する、不法投棄の温床になるなど地域の社会問題に発展しています。
- 求められる環境への配慮
農業においても、環境への配慮が求められてます。過剰な資源の使用や農薬の不必要な散布などによる土壌や水質への影響が懸念されており、持続可能な農業への移行が必要です。
- 病害虫・気象リスクの増加
人やモノの移動の増加や温暖化による気候変更により、病害虫や異常気象のリスクが増加しています。実際に農産物への被害も発生しており、品質の維持や安定した生産量の確保が難しくなっています。
- 生産と需要の調整
農産物は天候や害虫、病気などのさまざまな要因によって、生産量が変動します。そのため、需要に合わせて生産量を柔軟に調整することが難しいという課題があります。生産物の需要とのバランスが取れず、過剰生産や生産不足の発生が危惧されます。
- 消費者ニーズの変化
食の安全への意識の高まりから、農産物の品質や安全性について、より高い意識を持つようになってきています。そのため、農業においては、トレーサビリティの強化による透明性の確保と、品質管理の強化が求められています。
- 農業技術の普及の遅れ
新たな農業技術やデジタルツールの普及が遅れ、従来のやり方から抜け出せずにいる農家も少なくありません。農村地帯での高速インターネット接続展開が不足している点やIT人材の不足も、原因の一つとなっています。数多くの新技術が開発されている一方で、資金のある農家しか対応ができていないのが実情です。
3.DXで農業が実現できること
DXで農業が実現できることを具体的に解説します。
- 自動運転トラクターや収穫ロボットの活用による農作業の省力化
自動運転トラクターや収穫ロボットを使用することで、少ない人員でも作業ができ、農作業を大幅に効率化できます。ドローン、センサー技術を活用し、作業やモニタリングの大部分を機械に任せることで、労働力の不足を補うことが可能です。
- センサーやIoTによるモニタリングで環境負荷を削減
センサーやIoT(Internet of Things)デバイスを使用して、土壌の湿度、気温、光量などのデータをリアルタイムで収集し、農作物の成長や健康状態をモニタリングします。適切なタイミングでの水やりや肥料の供給などが可能になるため、過剰な資源の使用や農薬の不必要な散布などを削減可能です。土壌や水質の保全に貢献できるでしょう。
- ドローンの活用で病害虫・異常気象による被害を検知
ドローンを活用し、畑や作物の情報を高精度で収集します。異常な状態や病気を早期発見できるため、ピンポイントで農薬を散布するといった的確な防除措置を講じることができ、病害虫の拡散を防ぐことが可能です。また、収集した生育状況を気象データと組み合わせることで作物の成長を予測し、気象変動へのリスク管理策を立てることも可能です。
- 高精度の需要予測に基づく最適な作付け計画を立案
収穫量や気象データ、市場動向などの膨大なデータをAIで分析することで、需要予測の精度を高め、最適な作付け計画を立案することができます。需給バランスを適切に調整することで、生産者の収益の最大化や農産物の価格の安定化が期待できます。
- トレーサビリティと品質管理の向上
農産物の生産から流通までの過程を記録することでトレーサビリティを向上させ、消費者に必要な情報を提供することができます。消費者は農産物の安全性や品質をより正確に判断することができ、安心して農産物を購入することができます。
4.農業におけるDXの取り組み事例
農業DXの事例を紹介します。
- トレーサビリティと品質管理の向上
農産物の生産から流通までの過程を記録することでトレーサビリティを向上させ、消費者に必要な情報を提供することができます。消費者は農産物の安全性や品質をより正確に判断することができ、安心して農産物を購入することができます。
- 水門管理自動化システムの活用による省力化、生産性の向上
富山県高岡市の米農家「有限会社スタファーム」では、IoTセンサーを活用した水門管理の自動化システムを採用しました。タイマー機能と水位センサーを組み合わせることで水門管理を自動化でき、遠隔地や夜間の水門の開閉にも対応できるようになりました。従来は1日3回の見回りが必要でしたが、3日に1回で済むようになり、大幅な省力化を実現してます。適切な水管理により、雑草の減少や除草剤の使用量の削減、収量の増加などの効果も得られています。
- 農家と顧客をデジタルでつなぐ新しい流通
「やさいバス」はデジタル技術を活用して地域で野菜の効率的な流通を実現する仕組みです。購入者はWebサイトを通じて直接農家から注文し、農家は最寄りの「バス停」に野菜を持ち込みます。持ち込まれた野菜は、冷蔵トラックで共同配送され、当日中に購入者へ届けられます。この取り組みによって、農家と消費者の直接的な接点が生まれ、新鮮な野菜を低コストで流通させることが可能となりました。
参考:「農業DXの取組事例」農林水産省
5.農業におけるDX推進の注意点
農業DXを推進するにあたり、以下のような注意点があります。
- 地域特性の考慮
農業DXを推進するうえでは、地域特性を考慮し、一律のアプローチではなく地域ごとのカスタマイズが必要です。先行事例を参考に、地域にどのように取り入れられるかを入念に検討します。
- デジタル格差の克服
農業地域によっては、デジタル技術のアクセスやスキルが不足している場合があります。DXを推進する際には、デジタル格差を克服するための取り組みや、知識底上げに向けた教育プログラムが必要です。
- 伝統的な経験・知識の尊重と教育
農業は伝統的な技術やノウハウが重要となる産業です。DXの導入に際しては、農業者の経験や知識を尊重しながら、新技術に適用するための教育とサポートをすることが不可欠であり、変化に柔軟に対応する体制を構築する姿勢が求められます。
DXの推進には、その目的やデジタル技術への理解を深めることが大切です。
農業者や農業労働者向けに、オンラインでデジタル農業トレーニングプログラムを実施するサービスもあります。これらのプログラムは、農業のベストプラクティスや新しい技術に関する情報を提供し、参加者が自宅や農場からアクセスできるようになります。
サン・エム・システムでは、システム開発の知識がない方でも、Power Appsを使って業務アプリを簡単に開発できる技術力が短時間で身に付くハンズオントレーニングを提供しています。
6.課題解決に有効な農業DXに前向きに取り組もう
現代の農業は、人手不足や気象変動などの課題を抱えていますが、これらの課題は、DXのテクノロジーによって解決できる可能性があります。農業DXを進めるにあたっては地域の特性やデジタル格差など配慮すべきポイントは多いでしょう。さまざまな事例を参考にし、できることから取り組んでいく姿勢が必要です。
DXアドバイザーは、担当者がDX化に関する助言・提言を行い、経営者が達成したい経営ビジョン、ミッションを実現するためのロジック・ノウハウを提供します。農業DXの推進にお悩みの際には、ぜひご活用ください。
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【この記事を書いた人】
サン・エム・システムコラム編集部でございます。